7月5日の授業

2012年7月6日 | By mori | Filed in: 心理学(2012年度).

(全文を読む場合は、タイトルをクリック) 先週に引き続き、行動主義の話です。行動主義を提唱したジョン・ワトソン(探偵の友人じゃない方の《笑》)は、心理学から「心」およびそれに類する概念を排除しようとしました。意識とか無意識、思考、記憶などがありますね。これらの言葉で呼ばれる現象の存在を否定したのではなく、それらは行動に他ならないと考えたのです。そして、心理学を科学的に行なうには、行動の科学とならなければならないと主張しました。

ワトソンが言う行動とは、末梢的な筋肉運動(個々の筋肉の収縮。反射のことです)と腺の分泌活動(唾液など体液の分泌)です。すべての行動(「歩く」「ノートを取る」など)は、これらの複雑な組み合わせです。行動はすべて、刺激によってコントロールされています。この刺激と行動(反応とも言いますが)の関係を見出して行くこと、両者が結びつく仕組みを解明することが、ワトソンにとっての心理学です。

刺激と行動が結びつく仕組みを、ワトソンは条件づけに求めました。条件づけとは、ロシアの生理学者パブロフが発見した現象です。「パブロフの犬」というフレーズが有名ですが、この「パブロフ」であり、「パブロフの犬」は条件づけの一事例です。パブロフが発見した条件づけは、現在「レスポンデント条件づけ」として知られています。レスポンデント行動(反応)が従う条件づけなので、そう呼ばれます。もう一つ、オペラント行動(反応)が従う「オペラント条件づけ」が現在知られていますが、ワトソンはすべての行動は反射の複合だと考えたので、レスポンデント条件づけだけを使ったのでしょう。いや、当時は、両行動が区別されておらず、オペラント条件づけが体系づけられていなかったのかも知れません。

レスポンデント条件づけは、人間(動物)が生まれながらにして持っている、無条件刺激(UCS: Unconditioned Stimulus)と無条件反応(UCR: Unconditioned Response)を基盤に成立します。動物にある刺激を与えると、自動的に身体が反応することがあります。腹の減っている動物に「エサ」を与えると「唾液分泌」という反応が起きます。不意に「大きな音」がすると自動的に「身がすくみ」ますね。今、それ自体は何の反応も引き起こさない刺激(「中性刺激」と言います)を、UCSと同時に与えてやります。メトロノームの音は中性刺激ですが、これを「エサ」と同時に犬に提示することにしましょう。この経験を繰り返していると、メトロノームを聞かせただけで、犬は唾液を分泌するようになります。元々中性刺激だったメトロノームの音が、「エサ」と同様の反応を引き起こすようになったのですね。こうなった時点で、中性刺激は「条件刺激(conditioned Stimulus)」と、それによって引き起こされるという意味で、無条件反応と同じ反応ですが、「条件反応(Conditioned Response)」と呼ばれます。中性刺激が条件刺激になって行くことが、レスポンデント条件づけであり、これが私たちの身に起きてきた(起きている)ことです。正確に言うと、中性刺激が条件刺激になること(あるいはそのようにする手続き)を強化と言います。中性刺激がUCSの効力を代替するのですね。この逆に、ひとたび条件刺激になったものが中性刺激に戻ること(あるいはそのようにする手続き)を「消去」と言います。先ほどの犬に、メトロノームだけを聞かせ続けていると、唾液を分泌しなくなります。消去が起こらないようにするには、強化をすればよいです。たまには(いつもでなくてよい)、メトロノームとエサを同時に経験させてやれば強化が起こります。

私たちは、生まれてから成長して行きますが、その過程で起こるのは、レスポンデント条件づけによって、様々な条件刺激によって私たちがコントロールされるようになることだと、ワトソンなら言うでしょう。単なる紙切れが「お金」になること、「レモン」という元々は音(あるいは視覚刺激)に過ぎなかったものが「唾液分泌を引き起こす」ようになること。事例は枚挙にいとまありません。

残念ながらワトソンの行動主義は完全ではありませんでした。オペラント行動、およびオペラント条件づけを見逃したことが理由です。この点を補って、行動主義を完成させたのがバーファス・スキナーです。この話については、来週行なうことにします。


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