質問にお答えします-後期第6回-

2013年11月20日 | By mori | Filed in: 心理学(2013年度).

(全文を読む場合はタイトルをクリック) 前回の授業内容に対して寄せられた質問への回答です。

Q1. 言葉の発達段階を踏み、人と会話することを覚えた子どもたちが、何らかの影響(例えば、人からの悪口や、嫌な経験など)を受けて、言葉が出なくなってしまったとき、支援者や周囲は、どのようなことをすれば良いのでしょうか。

講義の内容を振り返ると、生得説よりも経験説の「条件づけ」によって、嫌なことが記憶されてしまい、話すことが困難になってしまったのではないかと考えました。

私は過去にそういった子どもを見ました。その子自身の良いところ誉め、言葉を引き出そうとしたのですが、上手くはいかなかったです。結局、自然と子どもから少しずつ話すのを待っていた状況です。

このような支援の形で、本当に良かったのか、今でも疑問に思っております。

A1. あなたの挙げている現象は、母国語獲得に関する生得説や経験説に関係するのか疑問です。授業では母国語の獲得がどのように起るか、どのように説明されるかを論じましたが、あなたが挙げている現象は、母国語が獲得された後に生じたコミュニケーション障害に関するものですね。これがどのように、母国語の獲得プロセスと関係しているのか。

さて、今回の質問が授業内容とは独立であるとした上で、考えてみましょう。あなたが挙げている現象は、あるきっかけによって、ひとたび獲得された技能の行使が阻害されるというものだと思います。これがどうして起るか、どうしたら元に戻せるか(改善できるか)ですが、できなくなるのは獲得した能力が欠損した(学習前に戻ってしまった)か、できなくなることを学んだ(一時的に阻止されている)かだと思います。少しずつなら話し始めたということなので、前者ではなさそうですね。では、できないことはどのように学習されるのか。

経験説の主唱者のスキナーは、学習全般が条件づけによって生じると主張します(「条件づけによる学習」という点で今回の授業と関係しますが、条件づけは、母国語の獲得だけに関係するのではない点にはご注意を)。「できなくなる」ことも学習です。スキナーによると、ある行動を行なった後に、当人にとって「嫌なこと」が生じると、その行動の頻度が減少します。あるいは、「嫌なこと」が回避できたり、未然に防げる行動をとるようになります。言葉を発したことに対して「嫌なこと」が生じると、言葉を発することをやめるか、「嫌なこと」が回避できる(未然に防げる)行動をとるようになるかします。あなたが挙げた現象は、スキナーだったらこのように説明するでしょう。ではどうしたら治るのか。スキナーによれば、望ましい行動の強化、望ましくない行動の消去が基本です。詳しくは、いずれ授業で条件づけを取り上げますのでそのときに。このような治療法は行動療法と呼ばれます。これが万全かどうかは議論があるので、これが最適だとは言えませんが、一つの方法です。

こういう子供を見るとなんとかしてあげたくなりますね。専門的な矯正技能の訓練を受けていない人が生半可な知識で治そうとすることは危険です。素人にできることは、優しく、温かく、心一つにそばについていてあげることぐらいでしょうか。専門的でもなんでもありませんが、自分ができることしかできません。あなたの対応はそれでよかったと思います。

今日の一句

[その壱]

母国語の 獲得ふたつ 学説が 経験説と 生得説

[コメント壱]

その通りの要約です。この節回しで、言語獲得に関する二つの学説をおぼえてしまいましょう。

 

[その弐]

生得説 誤りあれど 利点あり 文法的に 正しい発話

(作者注釈) 誤った入力にさらされながらも、(goの過去形をgoedと認識するなど)、文法が獲得される。ピジンのクレオール化。

[コメント弐]

この句の意味がよく取れません。素直に読むと間違っているように見えます。生得説には誤りがあるというのですか。どこが間違いなのでしょうか。その反面、何の利点があるのでしょうか。生得説を主張する人々が、刺激が貧困でも言語獲得には支障がないと言ったのは確かに行き過ぎです。しかしこれは生得説の誤りではありません。生得説は「言語獲得装置を人は生まれながらに持っている」というものでしたね。

ひょっとして、「生得説が説くところによれば、入力が間違っていても、文法的に正しい発話がなされるようになる」という意味の句だったのでしょうか。それなら次のような句ではどうでしょうか。

入力に 誤りあれど 文法は 整備されると 説くは生得説 (字余り)

 

[その参]

言語的 相互作用の 剥奪は 言語発達の 障害受ける

(作者注釈) 子供の置かれる環境によっては、というもの。ホスピタリズムやマターナルディプリベーションなどが言語獲得への影響があるというもの。

[コメント参]

言語獲得装置を持ってはいても、貧困な刺激(言語的相互作用が乏しい)状況では、母国語の獲得はうまく行かないのでした。その通りの要約です。


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