質問にお答えします-第3回-

2014年10月22日 | By mori | Filed in: 心理学(2014年度後期).

(全文を読む場合はタイトルをクリック) 前回の授業内容に対して寄せられた質問への回答です。

Q1. 自己意識の発生の話で「人間は言語を有することによって環境を代理させ特定の行動を返すことができる」とありましたが、赤ちゃんは言葉を持つまで自己意識は発生しないということでしょうか?

A1. そういうことになります。あなたの質問の仕方だと、こう回答して終わりですが、それでよろしいですか。あなたは赤ちゃんが自己意識を持っているのではと思っていて、それについてコメントがほしいように思われましたが、判然としないので、このような回答にとどめておきます。

あなたの質問文の後に、「・・・という現象から、こうではないかと思っている」とか、「もし自己意識がないとすると・・・となってしまうので、赤ちゃんにも自己意識があると思う」などを付け加えると、深みのある質問になりますよ。

 

Q2. ベルンシュタインの自由度の問題で「全身の配置が瞬間瞬間に変化する中で迅速にこれらを中央制御して自由度を縮減することはとても難しい」とありましたが、現在はそれができると言われているのですか?できると言われているならば、どのような意見があるのでしょうか?

A2. ベルンシュタインが自由度の問題を提起したのは結構昔ですが、今これを再度取り上げるのは(単なる史実としてではなく)、現在も解決していない問題だからです。たとえば、三嶋博之さんの「エコロジカルマインド」(NHKブックス)という本で取り上げられています。

 

Q3. 時間の知覚の話の中で150kmのボールがどうして打てるのか、という話がありましたが、「動体視力がいいからボールが見える」というのを一般に聞いたことがあります。どのような関係があるのでしょうか?

A3. 「急速に動く物体をとらえるのに得手不得手がある」という事実があります。これは否定できない現実ですね。それを「動体視力」という能力で説明しています。動体視力であろうと静体視力(という言葉があったか知りませんが、要するに普通の視力のことです)であろうと、結局ものが見えることを、旧来の知覚論と生態学的知覚論はどう説明していたでしょうか。

関係がありそうなものに直感的に気づくセンスはとても貴重なものですが、その関係をまず自分で考えてみる作業をするとよいと思います。すぐ他人に尋ねてしまうのでなくてね。あなたの思考力がもう一段上がりますよ。

 

Q4. 時間の知覚の話でフライが取れないという話がありましたが、アフォード等の面から考えると取るのが上手になることはないのでしょうか?

A4. 知覚は技能(技術)なので、個人差がありますが、訓練で向上します。次回(プリントの残りの部分で)詳しくやります。

「アフォード等の面から考えると」という表現ですが、「アフォード」は動詞ですので、「アフォード等の面」という表現はおかしいです。「アフォーダンス等の面」なら表現としては正しい。しかし「アフォーダンス等の面から考える」では、何が言いたいのかわからない。何をどう考えればよいと言うのでしょうか。

 

Q5. 先生は講義の中で、人間は物理的、社会的に見れるが、動物は物理的にしか見れないと言いました。遺伝子レベルで97%人間と同じと言われ、手話をつかえた例もある高度な知能を持つチンパンジーは社会的に見るということはないのでしょうか?

A5. 「遺伝子が似ているから人間と似ているのではないか」というのはよくある議論の前提です。しかし、たった3%の違いで、チンパンジーとヒトはかくも異なっているのはあなたもご存知かと思います。その前提はあてになりますか。むしろ別の前提から出発した方がよいのではありませんか。たとえば、チンパンジーの行動に社会的な側面があることを指摘してみるとか。チンパンジーが使った「手話」が言葉だとすると、社会的行動ができる証拠になりますが、あなたの知っているチンパンジーは、本当に手話を使っていたんでしょうかね? 「動物にも言葉がわかる」というのはセンセーショナルですが、正しいとは限りません。往々にして、こういう人目を引く文言に人はだまされます。このへんは、授業でいずれやります。

「遺伝子が似ているから」ということを議論の前提にするのは、最近ではあまり好ましく思えません。たとえば、「ゴットリープ–発達システム論」(佐々木正人編「身体: 環境とのエンカウンター」東京大学出版会, pp.89-111)を参照してみて下さい。遺伝子よりも考えなくてはならないことが書かれています。

 

今日の一句

[その壱]

知覚とは 刺激と思考で 推論す ヘルムホルツが 主流な意見

[コメント壱]

「 ヘルムホルツが 主流な意見」の部分が日本語としては少々変ですが、旧来の知覚論の中身を記憶しやすくしてくれたと思います。

 

[その弐]

知覚とは 刺激に対して 環境の 意味を知るのが アフォーダンス理論

[コメント弐]

「刺激に対して」の部分を除いて考えると、アフォーダンス理論(生態学的知覚論)のまとめになっていますが。 アフォーダンス理論では、「刺激から意味」という段階を経ず、環境の意味が直接知覚されると考えるので、「刺激」という概念は不要なんですよね。

 

[その参]

脳ひとつ 関節二十個 一瞬で 動かせるのか 自由度問題

[コメント参]

お、いいですね。関節の数は適当ですが、自由度問題がなぜ「問題」と呼ばれるのかが、よくわかる句になっていると思います。

 

[その肆]

筋肉より 姿勢の方が 依存する 行為は流れ 文脈問題

[コメント肆]

なんとなくわかりますが、「行為は流れ」とはどういう意味なのでしょうか。姿勢の方が何に依存するのですか。

 

[その伍]

可能性 学ぶものでは ないはずだ 環境にあると 想定される

[コメント伍]

いえ、行為の可能性の知覚は学ぶものなのです。知覚は技能ですから。環境にあるアフォーダンスや情報を抽出する技術は学ばないといけません。頭の中で、構成されるものではないという意味に、この句は取って下さい、皆さん。

 

[その六]

何できる 環境から知る 可能性 それを唱えた ジェームスギブソン

[コメント六]

その通りです。生態学的知覚論の要点を、コンパクトにまとめてくれました。


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