質問にお答えします-第10回-

2015年2月9日 | By mori | Filed in: 心理学(2014年度後期).

(全文を読む場合はタイトルをクリック) 今回は情報提供のみです。

以前なされた以下の質問に関して、『悪魔を思い出す娘たち』を読んで、情報提供します。虚偽記憶が作られた仕組みがわかっているのに、どうして虚偽記憶だと娘たちにわからせなかったかについての情報提供をしています。どうして虚偽記憶だとわからせなかったかに加えて、娘たちにどうやって回復を図ったのかについても述べました。

[以前なされた質問] イングラム事件についての質問です。この事件は解決したものの、イングラムさんとその娘たちに、どうやって記憶が偽りであったことを理解させるのでしょうか。ぜひ教えてください。

[提供1]

解離性同一性障害の人は記憶障害になりやすい。イングラム事件では、さらに尋問がストレスになり、娘たちは事実と空想が区別できない状態に陥ってしまった。そのため、イングラム事件が起こったことが、心理学者ピーターソンによってわかった。

しかし、ピーターソンは父イングラムに虚偽記憶を植え付けた張本人でもある。なぜ彼が事件解決のきっかけとなったのか。それは、ピーターソンが娘たちの証言に疑いを持つようになったからだ。証言によると、事件の時期が幼児期から最近へと変化し、加害者にイングラムの友人も加えられていった。また、新たな加害者に尋問すると、イングラムと同様に全く記憶にすら無かった。そこでピーターソンは心理学者として、新たに記憶について研究し直した。それによって、娘の記憶が虚偽記憶だったとわかったのである。

ここで本題に入る。事件解決後、娘たちにどうやって虚偽記憶を理解させたのか。娘のエリカについては次の内容の記述があった。事件の後、エリカは日常生活を送れるまで回復した。その頃、イングラム事件が雑誌になっていた。エリカはその表紙を見て、「事件のことを思い出したくない」と言う。つまり、イングラム事件自体は覚えている。さらに、もう一人の娘ジュリーがいたセンターのカウンセラーは次のように語る。「患者の記憶を信じる・信じないではなく受け入れることが必要。なぜなら、事実の追求ではなく、当事者が回復することが大事であるから。」つまり、ジュリーは虚偽記憶の理解をさせられなかったと考えられる。だが、記憶を植え付けられるのであるから、消してしまえば良いと考えられるかもしれない。しかし、それが解決に繋がらないことを別の例で述べていく。

患者(仮にAとする)は、宇宙人に誘拐された虚偽記憶を持っている。そこで心理学助教授のマイケルは、催眠によって虚偽記憶を消そうとした。ところが、記憶を作ることができても、消すことはできない。逆にマイケルは、無理にAの記憶を操作せず、その記憶をより詳しくさせてみた。すると、Aの中で記憶が落ち着き、トラウマ状態から回復することができた。

上記の例から、虚偽記憶を消すことができないとわかった。それでは、イングラムの娘たちの回復の道のりを、イングラム事件とAの事例を関連させて考える。娘たちとAは虚偽記憶を持っていた点で条件が揃っている。また、無理に虚偽記憶を理解させなかった点で一致している。それは、エリカの日常生活復帰の記述、ジュリーのカウンセラーの話、Aの事例で虚偽記憶を消すことができないことをわかっている、という3点から言える。さらに、どちらも虚偽記憶を持ちながら状態が回復した点でも一致する。したがってAの事例の解決法を元に、イングラム事件では無理に娘たちの虚偽記憶を消そうとせず、証言を受け入れていくことで回復を図ったと考える。

 

[コメント1]

労作ですね。文献に当たって、調べようとする態度はとても大切です。何でも、そしていつまでも、人が教えてくれるとは限らないですもんね。また、この本は本学図書館にはなかったはずです。それにもかかわらず、手にして読まれたことはとても素晴らしいと思います。

その上で、もうワンステップ向上するための意見です。調べたものは、他人による検証に開かれている必要があります。つまり、調べたことが正しいのかを、他人が判断できるようにするべき、ということです。どの文献を参照したか、どのページに書いてあったか、また原文通りか自分の言葉に直したのか。これらがわかるようにしておくとよいです。

最初の、文献については、しっかりとできていますね。これから習うと思いますが、引用した文献を挙げる時は「著者(訳者)」「出版年(翻訳年)」「タイトル」「出版社」を記すのが通例です。今回ならば、「ライト, L 1994 (稲生平太郎・吉永進一(訳) 1999) 悪魔を思い出す娘たち 柏書房」のように。細かい部分は、いろいろ流儀があると思いますので、そのときに指導してくれた人に従って下さい。二番目の該当ページですが、これを記しておくと、他人がすぐ検証できます。これは必須という訳ではありませんが、あった方が親切です。もしあなたの読み方、引用の仕方が間違っていたら、直してもらえますから。該当ページを書かずに引用し、それが違っていたことによって、元の著者の主張が誤解され続けているという事例があります。これは学問の発展にとって、よいこととは言えません。三番目ですが、これは著作権がらみで最近うるさくなっています。著者(訳者)の言葉通りの時は「  」に入れるとか、もっと引用が長くなる場合は、改行して引用文を独立させて書きます。

なお、虚偽記憶の形成については、イングラム事件の本より、次の本の方がよくわかると思います。よかったらどうぞ。「クランシー, S. A. 2005 (林雅代(訳) 2006) なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか ハヤカワ文庫」です。


Comments are closed here.