1998・10・1 No.14


聴覚障害者のこころのケア
滝沢広忠 Hirotada Takizawa

 最近、臨床心理士が脚光を浴びている。学校カウンセリング、災害被災者のこころのケアなどに関心が向けられるようになり、臨床心理士の資格取得をめざす学生も増えてきた。本学もそういった社会の期待や要望に応える形で、昨年は大学院に臨床心理学研究科を、そして今年は学部に臨床心理学科を開設することとなった。これはある意味では望ましいことであるが、ブームの観もある。
 社会のなかでこころの悩みを抱えながら省みられない人がいる。外見から判断しにくい聴覚障害者はそのひとつの例であろう。わが国に聴覚障害者が推定600万人いると言われて驚く人は多い。もちろんこの中に老人性難聴も含まれるし、こころのケアと無縁な人もいる。しかし意外と身近にいながら理解されないのが聴覚障害者ではなかろうか。
 わが国のろうあ教育は100年以上の歴史をもつが、聴覚障害者の心理臨床に関する研究はまだ緒についたばかりである。聴覚障害者の世界に関心をもつ健聴者は少ない。自分が聴覚障害者に対して偏見をもっていることすら気づいていない人がいる。ろう者の親の90%が健聴者であること、ろう者は欠格条項により多くの国家資格が取得できず、社会参加が阻まれていること(自動車の免許は取得出来るようになったが、それすら知らない健聴者は多い)など。専門家でも然り。精神病院で治療を受けているろう者の中には、治療者とのコミュニケーションが不十分なため、知的障害と誤診された人もいる。手話は指文字だけでなく表情があり身振りも大きいことから、誤解されやすい。私はろう者の精神健康度についてアメリカと日本で調査を試みたが、ろう者が精神的に不健康であるという証拠はみられなかった。一方、ろう者のアイデンティティに関しても調査を行っているが、ろう者の半数近くが「健聴者に対して怒りを感じている」と回答していた。これは社会のなかで傷つけられ蔑まれた体験をもつろう者がいかに多いかを物語る。聴覚障害者問題は聴力の損失にあるのではなく、「必要なコミュニケーションの保障がないためにさまざまな社会的ハンディをかかえている」ことなのである。手話は単にことばの代用ではなく、ひとつの言語である。ろう者にとってその母語ともいえる言語(手話)の使用を禁じてきたのがわが国のろうあ教育であった。
 1999年の10月から半年間、私はアメリカのワシントンDCにあるギャロデット大学精神保健センターに客員研究員として滞在した。この大学は世界で唯一のろう者のための総合大学である。ろうの教職員もかなりおり、立派に専門家として活躍している。心理臨床の領域においてもそうである。ろう者がろう者のカウンセリングを行っている。またそのような専門家を養成している。図書館には聴覚障害に関する研究書がたくさんある。日本で聴覚障害者のこころのケアを扱った本は、われわれが一昨年出版した『聴覚障害者の心理臨床』が最初であった。この分野の研究では、日本はアメリカより30年遅れている。アメリカ滞在中、精神病院やデイ・ケアを見学したが、ろう者専用の外来や入院病棟があった。聴覚障害のある職員も務めており、健聴職員でも手話に堪能な人が多く、患者はコミュニケーションでの問題はないようだった。
 アメリカにはADA(the Americans with Disabilities Act)法がある。わが国ではようやく差別法令を改正しようという動きが起こり始めたばかりである。これからは聴覚障害者も社会参加しやすくなっていくだろう。
 大正大学にこの春、臨床心理学専攻のろう者が入学するという。佛教大学では手話臨床をめざす大学院生が育っている。わが大学も社会に注目される分野の心理臨床だけでなく、もっと身近な障害者のこころのケアに関心をもつ専門家が育ってくれることを期待したい。


2002年度学位記授与式

第21期 人文学部卒業生 206人に学士(人文学)号

 2000年度学位記授与式が3月17日、北海道厚生年金会館ホールで行われた。第21回を迎えた人文学部では206人(人間科学科147人、英語英米文学科59人)に学士(人文学)号が授与された。全学では学士号授与者は1,103人、修士号授与者は5人であった。
 これにより人文学部の卒業生総数は4,270人(人間科学科は2957人、英語英米文学科は1313人)となった。


2003年度入学試験結果

人間科学科
  志願者総数 入学者数(4/1現在)
97年度 98年度 99年度 00年度 01年度 97年度 98年度 99年度 00年度 01年度
一般入学試験 1,298 1,139 851 730 621 82 135 103 62 72
センター試験 - - 300 372 306 - - 35 30 21
推薦入試(一般公募) 162 149 118 115 92 35 40 32 36 46
推薦入試(スポーツ) 21 11 6 5 9 7 5 3 5 6
推薦入試(指定スポーツ) - - 4 4 3 - - 4 4 3
推薦入学(指定校) 34 22 22 19 17 24 22 22 19 17
社会人入試 8 5 2 6 5 6 4 2 3 4
海外帰国生入試 - - 0 0 0 - - 0 0 0
外国人留学生入試 0 0 2 0 1 0 0 1 0 0
<1年次志願・入学計> 1,513 1,326 1,305 1,251 1,054 154 206 202 159 169
編入学 4 3 6 5 4 2 1 3 5 0
転学部・転学科 2 4 1 4 7 0 3 1 2 4
<2・3年次志願・入学計> 6 7 7 9 11 2 4 4 7 4

英語英米文学科
  志願者総数 入学者数(4/1現在)
97年度 98年度 99年度 00年度 01年度 97年度 98年度 99年度 00年度 01年度
一般入学試験 526 394 306 246 192 40 48 38 45 40
センター試験 - - 88 123 109 - - 13 4 14
推薦入試(一般公募) 57 44 43 39 33 24 27 27 26 33
推薦入試(スポーツ) - - 0 0 1 - - 0 0 1
推薦入試(指定スポーツ) - - 0 0 1 - - 0 2 0
推薦入学(指定校) 7 4 4 6 3 7 4 4 6 3
社会人入試 0 0 1 1 2 0 0 1 1 2
海外帰国生入試 - - 0 0 0 - - 0 0 0
外国人留学生入試 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
<1年次志願・入学計> 590 442 442 417 340 71 79 83 84 93
編入学 12 14 8 4 2 6 4 2 2 0
転学部・転学科 0 0 1 1 0 0 0 1 1 0
<2・3年次志願・入学計> 12 14 8 4 2 6 4 3 3 0

臨床心理学科
  志願者総数 入学者数(4/1現在)
97年度 98年度 99年度 00年度 01年度 97年度 98年度 99年度 00年度 01年度
一般入学試験 - - - - 800 - - - - 95
推薦入試(一般公募) - - - - 135 - - - - 31
<1年次志願・入学計> - - - - 935 - - - - 126

大学院臨床心理学研究科
  志願者総数 入学者数(4/1現在)
99年度 00年度 99年度 00年度
一般入試 30 33 10 10

※注意※

  1. 英語英米文学科は97年度より指定校推薦、社会人入試制度を導入した。
  2. 99年度より大学入試センター試験・指定スポーツ推薦・海外帰国生試験の各制度を導入。
  3. 00年度より1学年入学定員は臨定の廃止に伴い人間科学科130人、英語英米文学科70人に変更された。
  4. 00年度より編入学は2年・3年次入学となった。
  5. 00年度大学院臨床心理学研究科開設。
  6. 01年度臨床心理学科開設。
定年退職教員プロフィール

生田邦夫教授(宗教学)

 東北大学大学院博士課程(文学研究科実践哲学専攻)修了後、旭川南高等学校教諭を経て、1968年、札幌短期大学に赴任。77年、札幌商科大学教授。校名変更により札幌学院大学人文学部教授、現在に至る。この間、「宗教学」「宗教思想論」「人間学概論」などを担当。また、今日の総合教育センターの基礎となる一般教育改革に尽力される一方、就職部長として学園・学部の発展に尽した。
 研究上の専門では、「宗教学的人間学の研究」をテーマに多数の論文と著書を発表した。著書に『宗教の価値と人間―宗教学的人間学入門』(単著)『人間の宗教学』(単著)がある。


人間科学科・臨床心理学科
カ リ キ ュ ラ ム 紹 介

 
  人 間 科 学 科  

〜新カリキュラムのスタート〜

 2001年の臨床心理学科の開設を契機に、人間科学科は現代社会の教育本テーマとし、一方でとりわけ人間の言語、身体、社会、歴史の諸側面に着目して学際的に人間の尊重・多面的な諸問題を探究することを可能にすることである。カリキュラム改革に関する枠組みについては第一三号に詳しいので、ここでは特徴の一部に触れることにする。

学科一本のカリキュラム
 コース制の廃止が今回の柱である。カリキュラムを学科一本とし、その効果的履修を実現するために、諸科目を五つの領域に分けて提示した。従来の専門諸科目を通した体系的な学習の機会を保証しつつ、人間の諸問題にたいする学際的なアプローチを可能にしている。

選択の自由度を大きく
 専門科目では必修(基幹科目群)と選択必修(基本科目群)が学科カリキュラムの基本だが、コースの廃止に対応させて基本科目の下限単位数を大きく減らし、44単位を16単位とした。これによって、選択科目や他学部・他学科科目の履修の自由度が極めて大きくなった。

双方向型教育の重視
 新たに二年次にゼミナールを導入し、一年次のゼミとともに履修計画の策定、修学方法に関する指導などの履修ガイダンスや、課題発見的・課題解決的教育とを連結させた問題意識の涵養と四年間を視野にいれた「学びのマップづくり」を主眼にしている。

(人間科学科 鶴丸俊明)
  臨 床 心 理 学 科  

〜カリキュラムについて〜

 臨床心理学科の開設に向けた準備作業については、第13号でご案内したが、その後平成12年12月文部省より設置の認可を得、本年4月より新学科を開設することになった。すでに1月25日および2月9日にそれぞれ推薦、一般の入学試験を実施し、10倍余の厳しい競争の中選抜された新入生が新しい門出を待望しているところである。新学科の基本理念は昨年4月開設された臨床心理学研究科設置の趣旨を踏まえ、学部段階の基礎教育を充実させ、学部・研究科一貫の高度の専門教育を実施しようとするものである。学科の特色はそのカリキュラムに反映されることから、前号で述べたことと多少重複する点もあるが改めて新学科のカリキュラムについて句点かその特徴を紹介することとしたい。

一、卒業要件
 卒業要件は全学共通科目48単位以上、専門科目76単位以上、計124単位以上を修得するもので、この大枠は他学科と基本的には変わらない。専門科目は表にあるように、大きく専修基礎科目、専修実習科目、専修科目、関連科目に分けられており、専修基礎科目20単位はすべて必修、さらに専修実習科目は6単位が選択必修である。

二、多様な選択科目
 カリキュラムの最大の特徴は専門科目のほとんどが選択科目なことである。専修基礎科目10教科20単位の他はすべて選択科目であり、卒業論文も選択科目である。これは専任教員9名のうち8名が臨床心理士という臨床心理学に特化した教員陣容が可能にしているもので、例えば心理療法に関する科目として深層心理学、クライエント中心療法、行動療法、芸術療法、遊戯療法の5科目が開講され、また実習も臨床心理学実習A〜Fの6科目が開講される。ここで実習科目は施設体験学習の他は本学の心理臨床センターなどの学内での実習である。学生はそれぞれの興味・関心に沿って心理臨床の基礎、応用、展開へと学習を進め一貫した知識を習得する。なお卒業論文を選択するためには臨床心理学演習I・IIを履修していなければならないことになっている。

三、専門科目はほとんどが二年次以降に開講
 専門科目は専修基礎科目4科目および関連科目の心理学特殊講義の他はすべて二年次以降に開講される。学生にとっては各自一年時に臨床心理学への関心を自らどう深め、広げるかが二年次以降の勉学に非常に重要になると考えられる。また一年次に専門科目の開講が少ないことは二年次から急に専門科目が多数開講されることでもある。本学科も他の学科と同様に編入学制度や転部・転学科の制度を導入するが、これを二年次にのみ認めることとしたのは、三年次の編入ないし鞍部・転学科では実習科目が多いこともあり二年間で卒業要件に見合う単位の修得は困難と考えられるからである。

四、資格、その他
 心理学に関連した資格として「認定心理士」および「臨床心理士」がある。このうち「認定心理士」は全学共通科目および本学科開講科目の履修により取得可能である。「臨床心理士」については学科卒業後大学院で二年間学び日本臨床心理士資格認定協会の実施する試験を受験しなければならない。また教職課程を履修することにより「公民」の免許状の取得が可能である。

(臨床心理学科 池田光幸)

2000年度
  卒 業 論 文 紹 介< center>

〜 人 間 科 学 科 〜

「思想・文化と人間」コース

 今年度卒業論文を提出したのは、合計で36名であった。全体としては、何らかの文献の説に引きずられることなく、自ら立てた論の目標に向かっていくものが多かった。そのうちとくに優れているという評価を得たものは以下のとおり。
 前澤由香里『呪術の機能』は、十分な準備のうえに呪術儀礼の実例を挙げた手堅いもの。安陪悠子『合成洗剤の危険性について』は、各種の文献を駆使し、また時間をかけて各地の石鹸使用運動の調査をして纏めた好論文。椿陽架『『羊を巡る冒険』を読む〜羊の謎をめぐって〜』は、村上春樹の文学的出発点とも言うべき作品を、最後まで自分の見解を貫けなかった恨みはあるものの、作品内在的に丹念に追求・解明した佳作。藤本美里『手のX線写真による第II指と第IV指の屈曲角度および遺伝性について』小川英里子『手のX線写真によるII指とIV指の長さの差とその遺伝』の二篇は、精密な骨計測を行い、両指の相関や親子の類似性などを数量的に明らかにしたユニークな研究。佐藤伸『現代人の「近視」に対する考え方とその状況』は、よく練られたアンケート調査の結果から、若者の近視に関する意識と現状を適切にまとめた。小林桃子『フォイエルバッハにおける人間と自然』はこの哲学者の自然観の今日的な意義を正面から論じた力作。手塚和香葉『母と子-母性愛神話と現代の母親』と安田睦『死刑制度について』は、今なお現代社会に根づよく残る通念と制度を痛烈かつ精緻に告発した好論文。木原奈津『人工生命は生命であるか』はコンピューターに関する知識に基づいて難解な議論を展開し、筆者の分析力を示した。栗山智樹『中島敦の「我」』は特異な一作家の実存的苦悩と自我意識を論じた大作。田中麻理『においについて』は、においを論じることが人間論になることを示した好論文。仲尾光洋『書の芸術性と表現』は体験に基づく『墨家』論で、論文としての完成度は群を抜いて優れていた。古川裕理『縄文時代の人面装飾付土器と獣面装飾付土器について』は、両者の分布域の違いや東日本への偏在を浮かびあがらせた、また村上可奈『縄文時代後期北海道における墓制―環状土簾について―』は膨大な情報に立ち向かって被葬者に迫った、ともに力作。飯島達也『複製縄文土器の製作実験における土器割れの考察』は、久々の実験考古学の大作。梅田広大『オホーツク文化における家畜の役割について』は確実な資料操作にもとづいた完成度の高い論文であった。

(奥田統己)
「社会生活と人間」コース
 今年度は卒業論文提出者48名による発表が行われた。分野別では、近現代史を含む歴史関係16、青少年・教育・性・ジェンダー関係12、家族・地域社会関係7、社会福祉関係9、環境・NPO関係4と、例年どおり多彩な内容であった。
 歴史関係では、近藤健稔「日本人の姓(氏)について」(北川ゼミ)、高橋淳「太平洋戦争下の札幌市民の生活について」(船津ゼミ)、室野あかね「パレスチナ問題の本質について」(布施ゼミ)などが丹念に事実関係を調べ上げた労作にふさわしい報告であった。教育関係では、千野佳奈子「階級・階層構造の再生産に教育が果たす役割」(布施ゼミ)がシャープな問題意識と緻密な論理がひときわ目立つ力作であった。地域社会関係では、今野大介「中山間地域における過疎対策に関する一考察」(内田ゼミ)が内発的地域振興に努力している過疎地域の事例を取りあげて、精密な分析を行っていた。社会福祉関係では、出村聡美「身体障害者の自立生活」(松本ゼミ)がケース数は少ないものの、実施困難なヒアリング調査によって、また木下伸一「歴史のなかの障害者像」(同)は近世の文書の読み込みによって、障害者の生活像を描き出そうと試みた好論文であった。
 他方で、歴史を扱いながら史料の正確な解読ができていないもの、問題意識に乏しい概論風のもの、逆にテーマに対する過剰なまでの主観的思い込みが先行して、議論がひとりよがりになっているものなどが一部に見受けられる。これはいただけない。理論研究にせよ、実証研究にせよ、レポートと異なって、卒論には何らかのオリジナリティーが求められる。問題意識とテーマ設定の妥当性、収集した文献資料や史料の精確な解読、論理的な叙述といった要件が満たされなければならない。
 学問の世界が活況を呈し、それが学生の知的関心を刺激するという状況にはない。しかも、雇用情勢が悪化し、就職活動が早期化・長期化している。こうした悪条件のなかで、卒論をまとめあげた学生と指導にあたった教員の苦労は並大抵のものではない。しかし、コピーではないオリジナルな作品を創りあげる産みの苦しみは貴重な経験であって、ここから学生自身が得たものも計り知れない。ここに、マンモス大学にはないメリットがある。
(湯本誠)


「人間の形成と発達」コース

 平成12年度人間の形成と発達コース卒論登録者は全部で67名であり、このうち64名が提出し(95%)、全員が合格した。3名は未提出であった。発表は2月1日、2日の二日間、三グループにわかれて行われた。以下はその概要である。
 発表会には各グループとも30名前後の参加者があり、とりわけ三年生の参加が目立ち、次年度の卒論執筆に対する意欲が伺えた。卒論テーマは広範囲にわたり、各ゼミの特徴をよく反映しているように思われた。
 教育学を背景にすえた富田充保ゼミでは「いじめ問題を振り返ったとき、加害者・傍観者はどのように感じるか-改めていじめ問題を当事者として認識するために(村上和江)」や「子どもの虐待と母子関係の重要性-虐待の世代間伝達を中心に(北口芽衣子)」といった今、教育界で問題になっているテーマが取り上げられたり、教育心理学系の小林好和ゼミでは「子どもの因果関係の統合と産出について―私は「私」をどのようにして発見したか(三井玲佳)」や「「絵本体験」が発達過程に及ぼす影響について幼い頃の絵本の記憶・想起を通して(佐々木道子)」等、認知発達を中心にすえた卒論が目立った。現場を見ることを重視する森直久ゼミでは「断酒会における会員の発達過程(亀田悦子)」や「大規模病院内における目的場所への移動に際して用いられる環境青報(舟根妃都実)」といった、まさに現場が実験場所のきめ細かい卒論が多かった。
 一方、精神医学を背景とした小片基ゼミでは「終末期における仏教各宗派の関わり方の比較(正村寿英)」や「スピリチュアルケアの重要性に関する一考察(石田潔)」など、医療的ケアの視点から人間の心を追究した論文が目立った。心理臨床系の清水信介ゼミでは「青年期の理想自己と自己意識に関する研究(木下さやか)」や「青年期における心理的離乳と自己開示に関する研究(高橋理絵)」など、青年期対象の卒論が多かった。また小山充道ゼミでは自閉症との心理療法的関わりを軸にした事例報告「発達援助を必要とする子どもとの心理的ふれあいを通して(山中優子)」や、心理学的手法を駆使した「風景構成法における大量群アイテムの描画面積(佐々木玲二)」など、長期にわたって取り組んだ卒論が目立った。
 総じて臨床現場を重視した実験・調査・事例論文が多数を占めた。これらは臨床を重視する本コースの教育姿勢の反映だと考えられる。
 本コースはとくに人間の形成・発達過程を、教育学、認知心理学および心理臨床の視点から取り組んでいるが、その名のとおり卒論テーマは実に幅広い。しかも各ゼミとも時代に即応した今日的テーマでの取り組みが目立ち、力の入った論文が多くなった。本コースの場合、自分の足をフルに使って書き上げた論文が多いのが特徴である。年々論文の質は向上し、次年度も期待がもたれる。

(徳田仁子)
〜 英 語 英 米 文 学 科 〜

 英語英米文学科に提出された本年度卒業論文は3本である。中村公一君は「高校英単語語源データベース…小樽・後志地区高等学校使用教科書における英単語を中心に…」を主査の坪井主税教員に、黒田景子さんは「ロシア系ユダヤ移民のアメリカにおける生活と発展…十九世紀末から二十世紀初頭のニューヨーク市ロアー・イーストサイドの生活を中心に…」を主査のリチャード・イデ教員に、佐藤友美さんは「映画監督アルフレッド・ヒッチコック…光と影、音と沈黙のテクニック」を主査の岡崎にそれぞれ提出した。なお、副査は中村論文が岡崎、黒田論文が平体由美、佐藤論文が中村敦志の各教員である。
 中村論文は小樽・後志地区の高校使用英語教科書をすべてそろえ、現出した英単語をすべて取り出し、その語源を各種辞書をもとにして調べ上げた。本文270頁に及ぶ労作である。教職志望の中村君は自己の体験を踏まえ、教室で生徒にどのようにして英単語を教えるべきかを問題提起とし、ひとつの方法論として語源解説による指導法が有効ではないかと判断する。黒田論文はアメリカ研究の成果のひとつである。アメリカに渡った19世紀末から20世紀初頭のロシア系ユダヤ人の生活や文化を丹念に追っている。先行移民のドイツ系ユダヤ人との相違をドイツ系が「アメリカ化」を志向していたのに対しロシア系はユダヤの民族性を維持しつつ発展していったと結論する。黒田さんはかつて英語英米文学科が集中講義にお呼びした野村達郎教授(現愛知学院大教授)の著書に依拠しつつ論を展開する。
 佐藤論文は映画監督アルフレッド・ヒッチコックのサイレント・白黒映画「下宿人」とトーキー・カラー映画「知りすぎた男」の比較論である。ヒッチコックがサイレントの制約下で本来出せない音や色をいかに観客に伝えたか、その技術が佐藤論文によって明らかにされている。結論としてサイレント・白黒映画製作で鍛え上げられたヒッチコックの技術がトーキー・カラー映画づくりに継承発展されているとする。
 新カリキュラムの発足に伴い、英米の大学に半年留学を予定している新二年生はすでに20名をこえた。今後留学体験を活かして卒論に取り組む学生が現れることを期待している。注などの表記等は学問的に重んじるとして、内容については従来の題目にとらわれない自由で創造的なものがあってよいだろう。

(岡崎清)

教員採用の結果

 少子化による学級減のため教員採用数が減少し、高倍率が続く折り、次年度の採用検査で本学全体として12名が登録となった。このうち8名は今年度、北海道や秋田県など各地で高等学校等の期限付教員、時間講師をくぐり抜けての登録である。人文学部では人間科学科四年で高等学校・地理歴史で登録された飯島進也君をはじめ、中学校・社会で登録された三浦由美子さん、卒業後長期にわたり期限付教員として勤務しながら、通信教育で小学校の免許を取得し特殊・小学部で登録された横澤基君が含まれている。英語英米文学科からは高等養護学校の期限付教員としての経験を生かして加藤富久子さんが北海道、及び青森県で特殊・高等部・英語で登録となった。
 さらに今年度の場合、期限付任用、および時間講師として30名が教壇に立っていることから、次年度も同様の任用が見込まれている。
 本学では今年度、社会情報学部で高等学校「情報」の課程申請が認可され、人文学部で次年度「福祉」の課程申請に向けた準備が進んでいる。大学院での専修免許状を含め、本学の教職課程がさらに充実されることになる。今後人文学部では「社会」「英語」に加え、「福祉」、さらにニーズの高まる教育臨床、あるいは情報技術の領域でも力量を高め、「教職への道」を切り開きたいと考えている。

(小林好和)
2000年度 公立学校教員登録者

―北海道―
 
高等学校・地理歴史 :飯島進也(人間科学科4年 鶴丸ゼミ)
中学校・社会 :三浦由美子(人間科学科98年度卒 小林ゼミ)
特殊・小学部 :横澤 基(人間科学科90年度卒 酒井ゼミ)
特殊・高等部・英語 :加藤富久子(英語英米文学科98年度卒業 坪井ゼミ)

―青森県―
 
特殊・高等部・英語 :加藤富久子(同右)

合格おめでとう

 北海道大学教育学部大学院教育学研究科 01年4月
 日本臨床心理資格認定「臨床心理士」 00年4月
 ・近田佳江(人間科学科93年度卒清水ゼミ)

 札幌学院大学大学院臨床心理学研究科 01年4月
 ・小野(旧姓吉田)実佐(人間科学科 98年度卒 小山ゼミ)
 ・佐々木道子(人間科学科 00年度卒 小林ゼミ)
 ・山中優子(人間科学科 00年度卒 小山ゼミ)


臨床心理学研究科一期生紹介

〜サラダボウルの私たち〜

 胸が詰まる悲惨な事件、事故が新聞をにぎわしている毎日です。「心の闇」なんていう言葉も訳がわからないまま、まるであたりまえのように言われるようになりました。すぐキレル若者や虐待する親一ひきこもりなどがマスコミに取り上げられ「スクールカウンセラー」や「臨床心理士」などという、今まであまり表に出なかった人たちもTVに出るようになりました。
 そんな世紀末の平成12年、大学院臨床心理学研究科が新設され、私たちはその一期生として入学しました。
 蓋を開けてみると一期生は年齢も経歴も様々でまるでサラダボウルのようなメンバーです。私も特に心理学とは畑違いの学部から入学したので戸惑う事もなきにしもあらずで、心理臨床の「研究」と「実践」との狭間の見えづらい柔らかい壁を一体どのように崩し、繋げて行ったら良いのか。またそれらは車の両輪のように相補うものでなくてはならないのだ、と試行錯誤の毎日です。
 また哲学、宗教、そして科学や医学などとゆるやかでしなやかな結びつきすらもつ、この学問の奥の深さにも、一種の驚きをもっています。
 言わずもがなの事ですが、私たちがしようとしている事は理論の研究だけではなく、この複雑な現実社会に生きる「活きた人間」の研究であるからです。
 ひと口に「こころの専門家」などと言われますが、どれ一つとして同じものがないひとの「こころ」というものに関わっていくという覚悟と責任をじわじわと実感させられるこの一年でした。
 また私の担当教授である小片教授は「一期生には一期生の責任がある。」とおっしゃられましたが、今これを書きながらその言葉を痛感しています。まだカラーや伝統のない真っさらな状態であったこの研究科がどのような方向に向かっていくか、創っていくのは教授陣と私たちであるからです。
 各人の研究テーマはそれぞれ違いますが、一つのものに、つまりひとの「こころ」というものに集約され、ここで何かしら確かなものが創りあげられていくようにならなくては、と感じています。
 もうすぐ二期生が入学してきます。サラダボウルのように、個性をもちつつも同じ目的をもって刺激、創造できる仲間が増えることを歓迎します。

(大学院臨床心理学研究科 一期生 内山裕子)

英語英米文学科
『海外留学』

 英語英米文学科「新カリキュラム」による五カ月の留学を終えた一期生・19名が全員元気に帰国した。生の英語と向き合った五カ月の体験を綴ってもらった。 2001年度は留学先に英国エセックス大学が加わる。英語英米文学科カリキュラムによる留学参加予定者数は次表の通りである。
 

留 学 先 大 学 参加人数
米国・パシフィック・ルーセラン大学 5 0 5
米国・カリフォルニア大学デービス校 13 5 7
英国・エセックス大学 9 4 5
合 計 27 10 17

ア メ リ カ で の 生 活
- 斉藤 佐和 -

 2000年8月30日、アメリカでの5ヶ月間の生活が始まった。いつの頃からか憧れていたアメリカでの生活がついに現実のものとなった。これからなにが起きるかわからない期待もあったが、それよりも不安のほうが大きかった。自分の英語はちゃんと通じるのか、相手の言ってることは理解できるのか、生活していけるのだろうか…。その不安はまさに的中し、相手の言ってることはわからず、だから答えられないし、自分の意思は英語にして言えず、会話は全く成立しなかった。生活様式も文化も違い、戸惑うばかりだった。そんな不安だらけの中生活は始まり、学校も始まってしまった。
 学校での授業も最初はほとんどかわらなかった。でも先生たちは私が理解できるようなやさしい単語を探し、ゆっくりわかりやすいように話してくれたので、何とか理解できることができた。そして、先生の言っていることが理解できた時は本当に嬉しかった。自分の意思を伝えるのはやはり難しかったけれど、知っている限りの単語を並べて、一生懸命話しをすると、先生も一生懸命理解してくれようとして、嬉しかった。こうしてコミュニケーションのとりかたを習得していった。次に私を苦しめたのは山のような宿題だった。いくら時間があっても間に合わなかった。最初のセッションは本当に地獄で辞めたいと思ったし、帰りたいと思った。しかし、二ヶ月、三ヶ月と時がたつにつれて、英語は完全に理解できるようになり、話すことも不自由はなくなってきた。宿題をするコツもつかむことができた。そして学校が楽しくて仕方なくなってきた。授業以外にも友達にあって話が出来ること、放課後に先生のオフィスに行って、話をすることが楽しみだった。私と同じように韓国、台湾、UAEから来ていた人達とも仲良くなり、文化の違いの話をしたり、お互いの母国語を教えあったり、いろんな話をした。先生とも映画や音楽、時には少し難しい話もした。そうして国籍も年齢も何も気にせず話していく中で、アメリカの文化や英語だけでなく、他の国のことやいろいろな人達の考え方の違いなどを知ることにも楽しさを覚えた。
 そしてアメリカで生活を共にしたホストファミリーも私にとっては大きな存在になった。最初の頃はうちの人達はゆっくりと話してくれたし、わかるまで何度も繰り返して話してくれた。何かわからないことがあって聞くと親切に教えてくれた。一生懸命話も聞いてくれた。そして何よりも私にとっては子供達の存在が大きかった。うちには6人の子供達がいて、みんな子供らしい子供でかわいくて仕方なかった。毎日、うちに帰ると、私の部屋に遊びに来ては、一緒に遊び、話をした。どんなに疲れていても、嫌なことがあっても、子供と触れ合うことで忘れることが出来た。また、いろいろな所にも連れていってもらった。マリナーズの試合を見に行ったり、動物園に行ったり、クリスマスにはシアトルのおばあちゃんのうちに泊まりに行ったりした。そしてクリスマスにはプレゼントもたくさんもらい、正月には一緒にパーティをし、ゲームをし、本当に楽しく過ごすことが出来た。時にはやっぱり自分は他人だと思って寂しく感じることもあったけど、自分を本当の家族のようにあたたかく受け入れてくれた。うちに帰ると、笑顔で迎えてくれて、一日何があったかを聞いてくれた。最初は単語一言しか言う事が出来なかったけど、時がたつにつれて出来事を話すようになり、そこから会話が膨らんでいろいろな話をした。この毎日のホストファミリーとの会話は間違いなく話す力、聞く力がついたし、それは本当に楽しい時間だった。
 この五ヶ月間アメリカという異国の地で生活をし、生の英語を学ぶことが出来たことはこれからの人生に大きな影響を与えるだろう。そしてアメリカの文化、英語以外にも家族や友達の大切さを知った。五ヶ月という期間は決して英語を勉強するのには十分な時間ではなかったけれど、本当に充実していた。今も向こうにいる友達や先生とは連絡をとっているし、これからもずっと付き合っていきたいと思う。そしていつの日かまた会える事を楽しみにしている。最後に私を支えてくれた全ての人に心から感謝したいと思う。


200年度学部教員の人事、研究活動等 (10/1 - 4/1)

◎教員の異動
▼退職(3月31日付)

●生田 邦夫(宗教学)
●J.Dobson(英語)
●G.Macmaster (英語)

▼採用(4月1日付)


助教授 工藤 与志文(教育心理学・教育実習)
東北大学大学院教育学研究科後期課程中退博士(教育学)
東北大学大学院教育学研究科助手


助教授 鈴木 健太郎(心理学特殊講義)
早稲田大学大学院人間科学科博士後期課程健康科学科単位取得退学早稲田大学人間科学部助手


講 師 中原 睦美(パーソナリティー論)
名古屋大学大学院博士課程後期課程退学加治木温泉病院臨床心理士


講 師 G.W.Wheeler (英語)
アメリカ・コーネル大学大学院修了


講 師 A.P.Bossaer (英語)
カナダ・アストン大学大学院修了(U.K.)


講 師 T.Silverwood (英語)
アメリカ・ペンシルバニア大学大学院修了

◎昇任(4月1日付)

教 授 内田 司
教 授 川合増太郎
名誉教授称号授与 生田 邦夫

◎留研

●鶴丸 俊明 長期国内研究員(01年4月〜02年3月)北海道大学大学院「細石刃及び細石刃核の技術形態学的分析」
●菅原 秀二 長期在外研究員(01年10月〜02年9月)イギリス・オックスフォード大学「近世ロンドンにおける政治文化の研究」

◎海外研究出張

●岩壁 茂 00年10月29日〜11月6日カナダ「博士論文審査・共同研究打ち合わせ」
●川瀬 裕子 00年12月24日〜01年1月8日イギリス「英米現代演劇のための資料収集、及び観劇」
●松本伊智朗 01年1月6日〜1月22日イギリス「2000年度研究促進奨励金『イギリスにおける社会福祉の実証的研究』に関わる関係諸機関への聞き取り調査」
●鶴丸 俊明 01年2月18日〜2月23日ロシア「ロシア科学アカデミー極東支部所蔵の考古学資料の観察とデータ収集」
●宮町 誠一 01年2月28日〜3月7日イギリス「英文学会参加と在外研究準備」

◎人文学部教員出版物

●池田 光幸
 (分担執筆)鑢幹八郎・滝口俊子編著『スーパーヴィジョンを考える』誠信書房
 01年2月199頁2,500円

●清水 信介
 (分担執筆)山中康裕他編著『世界の箱庭療法』新曜社
 00年10月179頁2,200円

●船津 功
 (分担執筆)石山久男・渡辺賢二編著『展望日本の歴史2歴史教育の現在』東京堂出版
 00年5月395頁5,000円

 (共著)『北海道の歴史』(県史シリーズー)山川出版
 00年9月392頁1,900円

◎依嘱発令

●小山 充道 日本心理臨床学会理事(00年11月より3年間)
●小林 好和 「発達心理学研究」編集委員(日本発達心理学学会)(01年1月〜02年12月)
●酒井 恵真 地域社会学会理事(社会地域学会)00年5月〜02年4月
●津田 光輝 江別市社会福祉審議会委員(江別市)(00年11月〜03年10月)
●鶴丸 俊明 北海道博物館協会理事(北海道博物館協会)(00年6月〜02年5月)
「捏造問題」特別調査委員会準備会委員(日本考古学協会)(00年12月〜未定)
全日本大学野球連盟評議員(財・全日本野球連盟)(00年4月〜02年3月)
●坪井 主税 平和博物館国際会議諮問委員会委員(平和博物館国際会議)(99年5月〜02年5月)
●船津 功 札幌市町名審議会常任委員(札幌市)(01年4月〜03年3月)
●松本 伊智朗 北海道子どもの福祉21プラン委員会委員長(北海道社会福祉協議会)(00年10月〜03年3月)

◎受賞

●奥田 統己 『アイヌ語静内方言文脈つき語彙集』により第28回金田一京助博士記念賞を受賞

◎研究助成

●鶴丸 俊明 「北海道における前期旧石器時代の研究」(高梨財団)30万円


編集後記

 人文学部は、4月から新たに「臨床心理学科」を加えて、「人間科学科」「英語英米文学科」とともに三学科になりました。三年目を迎える「英語英米文学科」の新カリキュラム、新年度スタートの「人間科学科」新カリキュラム、そして「臨床心理学科」の新設と、新しい世紀への準備が整いました。それぞれの学科の特徴を生かしつつ、学部全体に通底する共通感覚を大切にしたいものです。人文学部は、再任された杉山吉弘人文学部長を船頭に新世紀への船出です。

(及川英子)